心ある言葉、支えた命 宇和島で警官、体験語る
2005年3月6日朝日新聞記事より
メールでの嫌がらせから手首を切る自傷行為を繰り返していた女子高校生(19)が、専門学校へ進学を決め、立ち直ろうと歩き始めた。支えたのは警察官との電話での会話と携帯メール。宇和島市内で5日開かれた「親子コンピューター・ネットワーク利用犯罪防止研修会」(市PTA連合会主催)で、警察官がこの体験を語った。
高校生を支えたのは伊予署地域課勤務の森哲生警部補(42)。
インターネット被害と向き合うようになったのは01年2月のえひめ丸事故だ。犠牲者を出した県立宇和島水産高校のホームページに中傷する書き込みがなされ、原潜を実習船に衝突させるネット・ゲームまで登場した。
宇和島署勤務だった森警部補は、県警本部ハイテク犯罪対策室に勤務したことなどから同校の相談を受けた。個人所有のサーバーを使って同校の掲示板を新設。松山市のIT関連会社に掲示板の管理を依頼し、悪質な書き込みは即座に削除されるようにした。
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高校生から電話がかかってきたのは1月6日の午前零時半のこと。森警部補は転勤した伊予署で当直勤務をしていた。
「私、薬をたくさん飲んでいるの。助けて」。意識がもうろうとしている様子だった。面識もない人から「死にたい」「手首を切りたい」とのメールが数年前から届き、言いようのない恐怖感の中にいると訴えた。
その結果、高校生は、睡眠作用のある薬物をネットで手に入れて服用、幻覚も見るといった。カミソリで手首を繰り返し切った。傷口は40カ所にもなった。眠れず鎮痛剤などを大量に飲んで寝ているとも言った。
この日以来、高校生と森警部補は毎晩4時間電話で話した。「無理はいけない。卒業したら桜を一緒に見に行くか」。森警部補は励ましの声やメールを送り続けた。
それから2カ月。高校生は栄養士になる夢を持てるようになり、専門学校の入試に合格。4月に進学するという。
研修会で森警部補は、参加者約120人に、傷跡も生々しい高校生の手首のスライド写真まで見せ語りかけた。
「彼女を責めることは簡単です。しかし、悩みを受け止める大人がいないことの方が問題です。インターネットは便利ですが、心をむしばむ危険も潜んでいる。お子さんとコミュニケーションを密にしてください」
【写真説明】
「親子の対話が何より大切」と話す森哲生警部補=宇和島市住吉町1丁目の市総合福祉センターで
2005年3月6日 朝日新聞愛媛版朝刊
(記者:佐藤達也)